遺産の額に比べて取得額が小額
遺産価額が時価数百万円であるのに、成立した遺産分割協議の結果、取得したのは3万円に過ぎないとして、原告は、要素の錯誤、詐欺、公序良俗違反を理由として相続回復を請求しましたが、協議は有効であるとされた事例があります。
要素の錯誤の主張に対しては、原告は被告との対談から被相続人の遺産に相続分があり、それ故3万円を代償として遺産の単独相続に同意を求められることをさとったに違いないから相続に関する主要の法律効果を理解していたといえること、遺産の分割は共有物の分割と異なり、等価交換が支配する利益社会とは平面を異にする親族間の共同社会において情義を旨として処理されるべき事項であるところから民法の定める均等相続の原則から程遠いものがあるとはいえ、これを違法とすべきでないことは勿論、その間の不均衡をとらえて直ちに不公正と断ずべきでないこと、原告は、父死亡後幼少の頃から母の再婚先にいて長年音信不通、所在不明となっていたこと、亡き父には原告の相続分から控除されるべき特別受益があることなどを考えると3万円の額は不当に甚だしく小額といえないこと、原告は祖父死亡による遺産の相続分があることを予期しなかったので、被告の提示した分割の条件に喜んで同意し、遺産の内容、価額に関心がなかったことが明らかであること、そうするとその当時においては原告に錯誤があったといえないのみならず、たとえ遺産の内容、価額について原告の認識に事実と不一致があったとしても本件意思表示を決定する動機となったとは認められないから、右の錯誤はその意思表示の要素に関するものではないとされました。
詐欺の主張に対しては、被告が原告に本件遺産としては古い家屋と農地があるだけと申し向けた発言は、殊更遺産を秘匿し僅少なように装い原告を騙すためのものと認めるには十分ではなく、本件のような方法で遺産の分割をするには必ずしも遺産の種類、数量等の具体的内容やその価格を明白にしなければ協議できないものではないし、また、原告も被告の説明を盲信して本件協議に応じたとの証拠もないこと、かえって原告はその気になりさえすれば同席する母に相談するなり、即答を保留し遺産の内容を十分調査するなりして、その態度を決定することも可能であったはずであるのに、遺産の内容、価額に関心を持たず本件協議に応じたものと認められるとして、協議が被告の詐欺によるものとする証拠はなんらないとしました。
公序良俗違反の点も、原告の無経験、無思慮、軽率、窮迫に乗じ、被告が不当の利を博そうとしたとは到底認められないとして、その主張を排斥しました。
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